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[近田学長通信vol.4] 卒業生を想う ~実践知の積み上げへ

卒業生を送り出して5ヶ月が経過した。「終わっても終わらない」という実感がぴったりの心境である。「夜勤に上手く入れているだろうか」「適切なモデルに巡り合い、スキルに磨きをかける状況になり得ているだろうか」と心配が湧き出てくる。大学に入ってくる卒業生の情報は、概ねポジティブなものが多いが、個々人にとって真剣勝負の日々に違いない。ときどきは、卒業時のメッセージを思い出してくれているだろうかと気になる。‘どのような場であっても、人に・状況に「向き合って」ほしい’と強調したことを・・。
在学時代に培った力の上に、これから看護専門職業人になっていくために必要不可欠で、磨きをかけてほしい力がある。それは、経験から学ぶ姿勢を常とした実践知の積み上げである。楠見らは仕事の実践知を支えるために4つのスキルについて述べている(週刊医学界新聞3065号)。看護に引き寄せて表現すると、①看護業務を効率よく正確に行うためのテクニカルスキル、②患者の真意を把握し、同僚とうまくつながり協働するヒューマンスキル、③自己をコントロールするメタ認知スキル、そして、④看護を創造し遂行する管理能力のコンセプチュアルスキルなどである。まずは、テクニカルスキルおよびヒューマンスキルの獲得に努力してほしい。
それぞれの看護現場では、複雑な人間関係の中で、人生の苦悩に満ちた非日常的な事象に遭遇することが多い。その中で、積極的に周りの先輩たちの力(体験の共有およびアドバイス)を借りながら、さまざまな悩みや苦しみと能動的に「向き合って」ほしい。そうしながら、人間は自分の内面世界で暗黙知・実践知を獲得し、自分の経験として次に活かそうとするものである。その事象から逃げずに踏みとどまって、大学で学んできたリフレクシヨン(省察・振り返り)を有効に使いこなしてほしい。そうすれば、ベナー看護論にみる初心者から達人へ、徐々に近づけることになる。日々、人に・状況に「向き合う」ことによる成長のチャンスは、自分でつくるものであることを記憶に留めてほしい。
換言して、学生時代は形式知を学ぶことに精一杯だったかも知れない。職業人になって、マニュアル等には表現できない・されていないような事象に「向き合い」、自己の実践をとおしてのみ獲得されるその実践知を積み上げてほしいと心から願っている。
鳥取看護大学
学長 近田 敬子
(2019年8月19日掲載)

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